

“凍る”と“固まる”は違う──冷凍の構造設計

冷凍食品を扱う現場で、「ちゃんと凍ってるよ」と言われたとき、私はこう問い返すことにしている。
「それは“固まってる”という意味ですか?
それとも、“凍っている”という意味ですか?」
一見、同じような言葉に見えるこの2つの言葉には、食品の品質と構造において決定的な違いがある。
“固まる”とは、ただ冷たくなった状態
冷凍庫に食材を入れて、時間をかけて冷やす。
やがて食品はカチカチに「固まる」。
だがそれは、水分がゆっくりと凍結し、大きな氷結晶を形成した結果にすぎない。
この状態では、細胞膜は壊れ、解凍するとドリップが流れ、
肉はスカスカに、野菜はクタクタになる。
つまり、“固まっただけ”の冷凍食品は、構造が崩壊した食品である。
“凍る”とは、構造を維持したまま水分を固定すること
一方で、急速凍結によって“凍った”食品は違う。
氷結晶は微細で、細胞は壊れず、
解凍してもドリップは最小限に留まる。
つまり、食材の内部構造が保持されたまま、水分が固定された状態が「凍る」なのである。
この違いは、食感・味・香り・色・再加熱時の油浮き・保存性すべてに波及する。
「固まってるけど死んでいる食品」と「凍っていて生きている食品」の差が、ここにある。

冷凍=温度ではない。構造の“設計操作”である
食品の品質は、加熱や調味よりも「どう凍らせるか」に強く依存する。
たとえば同じ唐揚げでも:
油で揚げた後にそのまま冷凍した場合
→ 外皮が縮み、衣と中身が分離しやすくなる
揚げた後に−40℃で短時間凍結した場合
→ 油分のブリードを抑え、再加熱時にサクサク感が復元しやすい
このように、冷凍とは“保存技術”ではなく、
「構造を固定するための設計操作」と捉えるべきなのだ。
食品設計における“凍結パラメータ”の意味
設計としての冷凍では、以下のような要素を同時に設計する:
項目 意味
表面冷却速度 凍結の開始点をどれだけ早く作れるか
中心温度到達時間 臭みや変性が始まる前に芯まで凍らせられるか
氷結晶サイズ 食感とドリップ量に直結
凍結前のpH・糖度 膨張の影響/結晶の成長スピード制御
→ このように、冷凍とは「温度と時間を用いた構造の封印技術」である。
結語:冷凍は、「目に見えない構造」を取り扱う仕事
“固まる”と“凍る”の違いを区別できる工場は、少ない。
だが、この違いを意識して設計するメーカーは、
冷凍食品を「安売り消費材」ではなく、「構造化された製品」へと昇華できる。
次回は、「なぜ急速凍結は、温度だけでは語れないのか?」をテーマに、
“数字を超えた冷却設計”の世界を読み解いていきます。

